電気化学の実験
1. ネルンストの式
電気化学セルは、1) 電解槽、 2) ガルバニ電池 の2つに大別される。 電解槽では、非自発的な反応が 外部からの電気エネルギーによって進行させられる。(水の電気分解、めっき、電解精錬など) 一方、ガルバニ電池(電池の総称)は、化学反応が自発的に進行し、外部に電気エネルギーを供給する。
(* 電極の名称は、 アノード: 酸化反応が起こる極、電解槽では正極・ガルバニ電池では負極、 カソード:
還元反応が起こる極、電解槽で負極・ガルバニ電池で正極)
酸化体(Ox)と 還元体(Red)との間の 電子授受の平衡(=半電池反応の平衡)
a Ox + n e− = b Red
について、
電流が流れていないときの 半電池の電極電位は、化学ポテンシャルの考え方に基づいて、次の ネルンストの式で与えられる。
・・・・・ (1)
ただし、 Eo : 標準酸化還元電位、 T: 絶対温度、 n: 反応に関与する電子数、 F:
ファラデー定数(96485 C/mol)
(* ”標準”とは、25℃、溶液 1M あるいは 気体 1bar におけるの意)
活量係数=1 に近似でき、温度が25℃の場合は、 ・・・・・ (2)
であり、log の中味は モル平衡定数の半分となっている。固体(金属・単体など)や 液体(H2Oなど)の純物質は 単位活量とする。
ネルンストの式より、E は、標準電位 Eo からの 濃度バランスによる電位のずれとなる。
* これらの標準酸化還元電位は、ネルンストの提案により、水素電極の電位(NHE と略記: 2 H+ + 2 e− = H2、 Pt|H2、H+|、ただし、圧力 1bar、温度25℃)を 0 V と置き、それぞれ水素電極に対する電位差として定義されている。
・ 異なる2つの半電池を組み合わせて 電位差を生じさせ、ガルバニ電池を構成することができる。
たとえば、銅を 1M硫酸銅溶液に、亜鉛を 1M硫酸亜鉛溶液に、それぞれ漬けた2つの半電池を、塩橋(中の電解質イオンが導体になる)でつなぐと、銅板に
+ 、亜鉛板に −の電圧が起こり、ガルバニ電池(ダニエル電池)ができる。 各
半電池の半反応と 標準酸化還元電位は、 Cu2+ + 2 e− = Cu: 0.337V、 Zn2+ + 2e− = Zn: −0.763V なので、
全体の電池構成と 電位差(=ガルバニ電池の電圧)は、
Cu|Cu2+(1M)||Zn2+(1M)|Zn、 Ecell = 0.337 − (−0.763) = 1.100V となる。
・ 同様に、”溶液”の酸化還元反応による半電池の組み合わせによっても、ガルバニ電池を構成することができる。
たとえば、 Fe3+と Fe2+ 、I3− と I− のそれぞれの混合溶液を塩橋でつなぎ、それぞれの溶液から白金で電極を取り出したガルバニ電池は、電極の表面近傍でそれぞれ酸化・還元半反応が起こり、
Fe3+ + e− = Fe2+ 、 Eo (Fe3+/ Fe2+) = 0.771V、 I3− + 2 e− = 3 I− 、 Eo (I3−/ I−) = 0.536V
なので、 電池電圧は ネルンストの式(2)より、
Ecell = E(Fe3+/ Fe2+) − E(I3−/ I−)
= { Eo (Fe3+/ Fe2+) − 0.0592 log([Fe2+]/[Fe3+])} − { Eo (I3−/ I−) − (0.0592 /2) log([ I−]/[I3−])}
= ( Eo (Fe3+/ Fe2+) − Eo (I3−/ I−)) − (0.0592 /2) log([Fe2+]2[I3−]/[Fe3+]2[ I−]3)
= ( Eo (Fe3+/ Fe2+) − Eo (I3−/ I−)) − (0.0592 /2) log K
この電池反応が平衡に達したとき、 Ecell = 0 だから、
Eocell = Eocathode − Eoanode = Eo (Fe3+/ Fe2+) − Eo (I3−/ I−) = (0.0592 /2) log K
となり、
全反応(酸化還元反応) 2 Fe3+ + 3 I− = 2 Fe2+ + I3− について、また、一般的に、
log K = n (Eocathode − Eoanode)/0.0592 ・・・・・・ (3)
したがって、標準酸化還元電位がわかれば、25℃における 酸化還元反応の 平衡定数 K が計算できる。
また、 より、
ギブズの標準生成自由エネルギー凾fo(J/mol)が、 凾fo = − n F Eocell ・・・・ (4)
のように表される。 F: ファラデー定数(96485 C/mol)
この(4)式は、標準状態のガルバニ電池が自発的に放電する電力が そのまま 標準生成自由エネルギーであることを表し、凾fo が ”反応の駆動力”であることの きわめて直接的な表現になっている。(逆に、外部から電力を与えて電解すれば、そのエネルギーの分だけ物質が生成することをも表わしている。)
2. ガルバニ電池の測定実験
(1) 高入力インピーダンス mV計 の作製:
参照電極や指示電極に対し、電圧降下なしに微弱な電流の電圧を測定する必要があるので、デジタルテスターよりも高インピーダンスの、専用の
mV計を作製した。
(* 普通は、”電位差計(ポテンシオメータ)”やポテンショスタット用の専用機器を用いる。 ・・・ サイクリックボルタンメトリー(CV))
市販の”デジタルmV電圧計キット(秋月電子)”( max 200.0mV、入力インピーダンス:測定不可・推定10GΩ、入力バイアス電流:1pA)に、入力インピーダンスが111MΩ程度になるアッテネーター(100MΩ: 10MΩ+1MΩ+100kΩ)を付けて、max
2.000V表示専用とした。 調整箇所はスケール設定用ポテンショメータ(10kΩ)の1箇所だけであり、リニアリティー(直線性)は内蔵のLSI(ICL7136PL)の性能による。
較正は、デジタルテスターで電圧が測定できるほど電流容量の大きいダニエル電池(1.100V、 Zn|1M ZnSO4||1M CuSO4|Cu (CuSO4・・・ほとんど飽和))を、新規に調製して行なった。(希硫酸を各溶液に数滴加える) 各溶液間は塩橋(えんきょう; 1M KCl水溶液に寒天(かなり硬め)を溶かし、U字に曲げたφ10mmのガラス管に充填したもの)でつなげた。
Zn−Cu間の測定値は、 デジタルテスター(新しい006P電池使用)と並列にして測り、mV計のはスケール設定のポテンショメータを調整した。(* ダニエル電池は、何回か使用すると電圧が下がってくるので注意)
(2) カロメル参照電極による 半電池電位の測定:
飽和カロメル参照電極(SCE と略記、 Hg2Cl2((=塩化第一水銀、甘汞(かんこう)、カロメル) の固体) + 2e- = 2Hg + 2Cl-、 Hg|Hg2Cl2|Cl-|in 飽和 KCl: 0.241V)を用いて、 1) ダニエル電池の各半電池、 2) Fe3+/ Fe2+(硫酸鉄(U)と塩化鉄(V) 各1M in 1M HNO3)、 Ce4+/Ce3+ (硫酸セリウム(V)と硫酸セリウム(W) 各0.2M in 1M HNO3)の各半電池、の電位を測定する。 ネルンスト式(1の(2))によれば、すべてイオンに解離していれば、溶液のイオン濃度の差が無く 式の log 内は 1 になり、 E ≒ Eo になるはずである。
結果は、測定電圧が変動することはなく、この入力インピーダンス100MΩの mV計で充分安定していた。(デジタルテスターでは大きく変動する) しかし、全体的に SCEの電圧が+側に約20mVシフトし、SCE内部で副反応が起こっている可能性があり、また、これでもまだmV計の入力インピーダンスが低いと思われた。 また、溶液系の
Fe で約65mV(実質45mV)も電圧降下した。 (Ce は、1M in
HNO3の電圧が見掛けの値であり、ずれて当然)
また、指示電極(* 電極表面で起こるイオンの酸化還元反応による電圧を拾う)に用いた 純黒鉛棒(99.99%)と白金線ソレノイド(φ0.5mmPt線
約30cm分を巻いたもの)の測定電圧は、これらの濃度では電圧にほとんど差が無かった。
ダニエル電池:Cu−Zn全電圧 | Zn vs.SCE | Cu vs.SCE | Fe3+/ Fe2+ vs.SCE | Ce4+/Ce3+ vs.SCE | |
計算値 (100%解離とする) |
0.763+0.337= 1.100V |
0.763+0.241= 1.004 |
0.337−0.241= 0.096 |
0.771−0.241= 0.530 |
(Ceイオンが各1Mの場合、 1.610−0.241= 1.369 ) |
測定値 | 1.100V | 1.022 | 0.075 | 0.465 | 1.234 |
偏差 | 0.000V | +0.018 | −0.021 | −0.065 | (−0.135) |
* mV計の アッテネーターの抵抗を 1GΩ : 111MΩ (入力インピーダンス=1.11GΩ)に変えると、電圧表示値が安定するのに時間がかかり、測定値も、Fe: 0.470V、 Ce: 1.244V vs. SCE で それほど大きく上昇しなかったので、LSIの性能との兼ね合いで200M〜300MΩがbestかと思われる。
次に、 Fe3+/ Fe2+ の濃度比を変更して測定した。(Fe3+/ Fe2+ = 0.5M/0.5M、 0.25M/0.25M、 1M/0.25M、 0.25M/1M
vs.SCE 、 すべて in 1M HNO3、指示電極・白金コイル)
ネルンスト式((2)式)より、最初の3つは log 内が1であり E =
Eo (Fe3+/ Fe2+) − 0 = 0.771V であり、 残りの2つは、[Fe2+]/[Fe3+] がそれぞれ 1/4、 4 であり、 E = 0.771 − 0.0592 log
(1/4) =0.807V、 E = 0.771 − 0.0592 log 4
= 0.735V となるはずである。
結果は、上と同じような偏差が生じたが ほぼ一定であり、これを修正すると、ネルンストの式の通り、濃度比 [Fe2+]/[Fe3+] によって電位が変化するのが確認できた。 [Fe2+]/[Fe3+]=1 のときは、1M も 0.25M も ほぼ同じであり、結構低い濃度までこのmV計で測定できることが分かった。(0.1Mまで同様の電圧に測れるが、0.01M以下になると急に狂う)
1M Fe3+/ 1M Fe2+ | 0.5M Fe3+/0.5M Fe2+ | 0.25MFe3+/0.25MFe2+ | 1M Fe3+/0.25MFe2+ | 0.25MFe3+/1M Fe2+ | |
計算値 | 0.771−0.241= 0.530V |
0.771−0.241= 0.530 |
0.771−0.241= 0.530 |
0.807−0.241= 0.566 |
0.735−0.241= 0.494 |
測定値 | 0.464V | 0.465 | 0.468 | 0.495 | 0.418 |
偏差 | −0.066V | −0.065 | −0.062 | −0.071 | −0.076 |
(3) 銀-塩化銀電極の作製実験:
基準電位を作る半電池には、水素電極(2H+ + 2e- = H2、Pt(白金黒電極)|H2、H+|: 0.00(V))、飽和カロメル電極(Hg2Cl2 + 2e- = 2Hg + 2Cl-、Hg|Hg2Cl2|Cl-|: 0.241(V))があるが、ここでは作りやすい 銀-塩化銀電極(AgCl + e- = Ag + Cl-、 Ag|AgCl|Cl-|、0.222V、in 1M KCl、25℃)を作製して、ダニエル電池の半電池電位を測定した。
塩化銀は銀線(φ0.8mm)を陽極として約10%HCl で電解して付着させ、1M
KClに浸し、1M KCl寒天で下部を封じたφ15mmガラス管中に保持した。(保存液は
等張の1M KCl)
結果は、入力インピーダンスがほとんど問題とならないダニエル電池の測定でかなりのずれがあり、Ag/AgCl電極は、飽和カロメル電極の場合と同様に、
0.257−0.222 = 0.035Vほど +側にシフトした。
3. 酸化還元滴定
水溶液内で、ガルバニ電池の平衡定数が充分大きく、反応速度が速い場合 滴定に用いることができる。 滴定の場合は、水溶液内で電池反応(酸化還元反応)が完結しているので、ここでは電位差を測定する必要は無い。 よく知られている酸化滴定法として、過マンガン酸カリウム法、重クロム酸(二クロム酸)カリウム法、硫酸セリウム(W)法、また、還元滴定法として、ヨウ素還元法などがある。
・ ヨウ素還元法: ヨウ素酸化滴定法は反応速度が遅いのであまり用いられないが、チオ硫酸ナトリウム(還元剤)による ヨウ素の逆滴定はよく用いられる。
ヨウ素(I2: 水溶液中で I3−)および チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)の 各 半反応は、
I3− + 2 e− = 3 I− 、 Eo (I3−/ I−) = 0.536V
2 S2O32− = S4O62−(四チオン酸イオン) + 2 e− 、 Eo (S4O62−/S2O32−) = 0.008V
したがって、滴定反応は、
I2 + 2 S2O32− = 2 I− + S4O62− 、 Eocell = 0.528V
1の(3)式より、 log K = 17.8 (n=2)、 K = 6.31×1017 であり、反応はほとんど完全に右に進み この反応は滴定向きである。 また、1の(4)式より 凾fo = −1.02×105J/mol で(負の方向に)かなり大きい。
・ ウィンクラー法による 水道水の溶存酸素の滴定: バケツに入れて 半日 汲み置いた水道水中の溶存酸素量を調べた。水道水中の遊離塩素は、水と反応して遊離酸素に変わる。(金魚が充分生きるほど、意外と酸素が溶け込んでいる!) ためしに、気泡が入らないように蓋をした集気ビンには、酸素らしい気泡が発生していた。(水温約10℃)
作業で注意すべき点は、酸素が固定されるまでは空気に触れさせないことで、気泡が入った場合は、すみやかに水を足して気泡を追い出し、集気ビンの蓋をスライドさせる。(専用の”酸素ビン(通常100ml)”は、栓の摺り合わせ部分が斜めに切ってある)
滴定は、酸素が固定されヨウ素が生成した液 100mlを取り、0.01M
Na2S2O3 を滴下して行なうが、指示薬のデンプン液(可溶性デンプン使用)は、ヨウ素の色が充分薄くなってから添加する。(ヨウ素のデンプン錯体の反応が遅いため) 終点直前では、1滴加えるごとに数分かけ、スターラーで充分攪拌しながら行なう。終点は、青色が完全に消えた地点。
酸素の固定反応は、 Mn2+ + 2 OH− → Mn(OH)2↓ 、 O2 + 2 Mn(OH)2 → 2 MnO(OH)2 (オキシ水酸化マンガン(W))
酸を加えたときのヨウ素生成は、 MnO(OH)2 + 2 I− + 4 H+ → Mn2+ + I2 + 3 H2O
∴ 反応モル比は、 O2 : MnO(OH)2 = 1:2、 MnO(OH)2 : I2 = 1:1、 I2 : S2O32− = 1:2 より、 O2 : S2O32− = 1:4
結果は、100mlに対して、0.01M Na2S2O3 を 12.14ml消費した。 酸素濃度は、1:4 = xM × 100ml : 0.01M × 12.14ml より、x = 3.04×10−4M
∴ mg/l としては、 3.04×10−4×32.0×1000 = 9.73 O2mg/l
水温10℃としての飽和酸素濃度のデータは理科年表にも無かったが、0℃で
13.97mg/l、20℃で 8.84mg/l、 40℃で 6.56mg/l
を内分・推定して、10℃で 10.1mg/l として、
∴ 酸素の飽和度(DO)%は、 (9.73/10.1)×100 = 96 % であり、ほとんど飽和に近かった。 (cf. 栄養富化が進んだ湖水では 60%くらい)
(参考) 温度が変化する場合の 生成自由エネルギー線図(エリンガム線図)の読み方:
@ 酸化物の生成自由エネルギー: 製鉄において、高炉上部(500〜800℃)では、 Fe2O3
+ 3CO → 2Fe + 3CO2 ・・・ CO による還元、 高炉下部(900〜1200℃)では、 Fe2O3
+ 3C → 2Fe + 3CO ・・・ C による直接還元、 が起こる。
炭素の酸化反応に注目すると、 1) C + O2 → CO2 (低温域): 凾f=−94.3kcal、凾g=−94.1kcal、凾r=+0.70 2) 2C + O2 → 2CO (高温域): 凾f=−65.6kcal、凾g=−52.8kcal、凾r=+42.88 であり、1) の気体モル数の変化が 1モル→1モル であるのに対し、2) は 1モル→2モル で増加し、乱雑さが増加するので、このように
エントロピー変化凾rが大きい。上図左の、炭素の燃焼反応についての 凾f = 凾g − T凾r の線図は、その勾配 d(凾f)/dT=−凾r が、 低温域ではほとんど水平であり、高温域では右下がりになり、両直線は約979k(706℃)で交差する。
したがって、 C + CO2 → 2CO の反応は、706℃以上の高温で進む。
706℃における平衡定数は、 Kp = (PCO)2/PCO2 = 1。
一方、高炉下部から熱風を吹き込んで酸素過剰になっても、 2CO + O2
→ 2CO2 の反応は、気体 3モル→2モル (凾f=−110.6kcal、凾g=−123.0kcal、凾r=0.70×2−42.88=−41.48
)のように エントロピーが減少する反応なので、高温ほど起こりにくくなり 下部では
CO のみとなる。
A 硫化物の生成自由エネルギー: 鋼中の硫黄化合物(特に、MnS型介在物)は、熱間加工時に延伸して延性破壊や水素誘起割れの重大な問題を引き起こす。そこで、製鋼段階で硫黄量を減少させ、MnSを延伸しにくい球状にするために、硫黄との結合力が Mg、Caよりも強い ミッシュメタル(Ceが主成分)を添加する。
B 希土類金属の精錬: 希土類化合物(3価以上)のうち、フッ化希土類を
Ca で還元する場合、凾f が(負の方向に)最も大きく 反応が容易に進行する。(ただし、2価のSm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)はこの方法では反応が進行せず、Smなどの蒸気圧が低いことを利用して
ミッシュメタルを還元剤として系外へ蒸留して製造する)
・ CuS、NiS、PbS などは、精鉱を 炭素分を全く用いず、吹き込む空気(O2)量を調節するだけで温度と酸素分圧のコントロールを行い、山元などで
直接 粗メタルを製造する。(マット熔錬) ZnS はこの方法では無理で、一度 精鉱を酸化焙焼して ZnO としてから、コークスと熱して蒸留する。
§ 凾fo と エントロピーについて:
物理化学的に見ると、化学は、1.平衡論 と 2.反応速度論 に大別され、反応速度論も平衡論をベースとしています。一見関係無い様に見える熱力学と化学平衡論ですが、古典物理の熱力学からすべて導かれます。
G(ギブズの自由エネルギー)を、 G ≡ U+PV−TS (= H−TS) と定義すると、平衡状態(=いわば、充分”死んだ”、”リラックスした”、”弛緩した”状態)において、
微小変化 dG = VdP − SdT は、 閉じた系、温度 T = const(一定) とすれば
SdT の項が消え、 理想気体について V = RT/P より、両辺を積分して、
凾f = −RT ln Pi (Pi: 気体 i の分圧) の形となり、 また、化学ポテンシャルの考え方から、 凾f = −RT ln ai 、 凾f = −RT ln xi のように、溶液(融液)中の活量やモル分率(濃度)に拡張されます。
この式を変形すると、一般的な化学反応 ν1A1 + ν2A2 + ・・・・ → ν1’A1’ + ν2’A2’ + ・・・・ における 平衡定数 Kp(T)が、次の e−x 型 の式により表わされます。
凾f0 は標準生成ギブズの自由エネルギーと呼ばれ、25℃における物質1molを成分元素の単体から作る際要するエネルギー(J/mol)で、反応がどちら方向へどのくらい進
むかの駆動力の目安になります。
凾f < 0 ならば、反応は平衡に達するまで自発的に起こりますが、 もし、凾f > 0 ならば、化学反応は自発的に進行せず、この反応を進めるためには、次の2つの方法、
@ 反応生成物を連続的に、反応の”系外”に排出し 平衡をシフトさせる ・・・ 蒸留、沈殿・析出、分液、吸着、遠心分離、など、 あるいは、
A ”外部”から 電気、光、などのエネルギーを与える ・・・ 電気分解、めっき・電気精錬、光化学反応、光電池など
といった特別な操作が必要となり、いずれも”系の外部”との関わりによります。
さて、この”系”の範囲を広げて、大宇宙の系を考えてみましょう。 他に 物理的な”外部”を考えることができないこの大宇宙全体は、時間の経過と共に、エントロピーの増大によって疲弊する一方です。(宇宙規模になると、重力の影響が大きく効いて来ますが、ブラックホールはエントロピーが最大に達した結果の一つであり、宇宙はいつしかブラックホールの”穴”だらけになってしまいます。)
仏教やヒンドゥー教、ニューエイジなどに代表される ”転生輪廻”の考え方は、この「エントロピー増大則」という現実には全くマッチしません。宇宙には、エントロピーが最小の”初め”の状態があって、それが時間の経過と共に より乱雑になる方向に、不可逆的に進行していくのです。(→)
また、ビッグバン仮説やインフラトン理論も、さまざまな状況証拠によりまちがいであり、インフラトン理論では仮想的な”物理的高次元”というものを設定しなければならず、人間ががでっち上げた仮想的な粒子:インフラトン粒子
の検証も、事実上全く不可能であり、非常に無理のある理論(=”物理”理論とは呼べない理論、机上の空論)となっています。
したがって、聖書の記述の通り、約6000年前の ある短い期間で、神様が、天地万物を「創造」された、というキリスト教の主張のみが、唯一 正しい宇宙観として残ります。 この大宇宙、すなわち、”被造物全体”は、さらにその”外部”である”神様の領域”から創られなければならないのです。物理法則を超越した「奇跡」、すなわち、「再創造」も、神様による”外部”からの働きかけの一部です。 そして、その偉大さの程度は、DNAが決して自然発生的に合成されないことを考えれば分かります。
”では、その偉大な創造主なる神は、いったい誰が造ったのか!”という問いには、次のように答えることができます。
神様は、「唯一、永遠の初めから、永遠の未来まで生きておられる方」です。 神は「ことばの神」であり、天地万物は神のことばによって造られ、また、神は「預言」の賜物を与える方であり、神様が語られた言葉は必ず事を成し遂げます。 すなわち、神様の御前ではすべての物事がすでに「完了」しているのです。
このことを、最も端的に表わしている自然啓示は、純虚数の指数関数 e iθ という”無限多価関数”です。 e iθ = cos θ + i sin θ は、振動・波動、電磁気・光、量子力学に現れる数式ですが、境界条件の制限を除けば、−∞ から +∞ まで、ある周期性をもって無限に繰り返して存在する形式です。それと同時に、エネルギーを表わしています。
さらに、この”純虚数の指数関数”は、数学の3大分野である 幾何学、代数学、解析学が この一つのポイントに集結した形であり、それぞれの分野を代表する数学定数 π、i 、e がすべて含まれています。
熱力学・物理化学の e−x 型 の式 は 「死」を、そして、量子力学の e iθ型の式 は 「永遠のいのち」を、それぞれ表現しています。
このように、自然啓示によって、被造物は「創造主」の御性質を反映し、 自然対数の底 e が、その生死を分ける根源になっていることが分かります。 形而上学的に言えば、この e こそ、「御子イエス・キリスト」です。イエス・キリストは、「再臨」の時、生きている者と死んでいる者とを裁かれます。
πは「御父」、 i は「聖霊様」 を表わし、神の「三位一体」がここに啓示されます。
(参考ページ) 4. 物理化学の e ; 2.仏教・ヒンドゥー教と自然啓示、 6.数学思索の不思議